2010.09.15
VOL.10 「これはやらせか!」
今回の釣り情報の動画はこちら
●中山さん:ベラ
●吉本さん:カサコ
●土居さん:鯛
●岡本さん:鯛ダブル
●浅岡さん:鯛
●田中さん:本日2番目
カサゴを釣り上げる
良型の鯛をゲット
2時間の釣りを終えハイポーズ
これが台風が山口県を直撃した日の出来事であると誰が想像できるでしょうか?今回新潟、東京、愛知、大阪と、全国から本州の端っこ山口県柳井市に集まってくださった私の大切な方々。
2日前、台風が急に進路を変えて以来船長からは「今回の釣りはできないかも」という危険信号を受けていました。もちろん私も危険を冒すつもりはありません。
釣りパックは「安全第一」がモットーなのです。しかし、前日夜の2次会で今回主催の岡本先生が私にこんなことを言ってくださったのです。
「山口に来て食事も十分楽しめたから釣りに行けなくてもなんとも思わないよ。明日は美味しい浜料理を食べながらまた飲もう!」
こんなに優しい言葉をかけられて・・・
これで燃えなければ男じゃない!
私も漁師さんも朝まで2時間おきに台風情報を確認して、そしてついに奇跡は起こりました。
なんと、山口県上陸が半日遅れたのです。
朝ご飯の時、
「今日は釣りに行きますよ~」
と皆さんに伝えた時、心なしか表情が嬉しそうでした。
しかし漁港までの道中、海が見えてくると表情は一変。
「うわっ!すっげー波。これで本当に釣りすんの?」
明らかに動揺していました。
「釣るのは島影だから、こんなことはないですよ~」
という私の説明は耳に入らない様子でした。私も漁師さんも100%安全じゃないとGOサインは出しません。私達にはちゃんと安全に釣りをして、尚かつ絶対に満足していただく作戦があったのです。
漁港に着き、まずは2班に分かれていただき、半分は舟で半分は100メートル沖の波止場まで舟でお連れして投げ釣りをしていただく。これを1時間で交替する。
舟釣りと投げ釣りの2班に分け交替する
しかも、投げ釣りは料理長同行(釣りの指導員も兼ねる)で釣った魚をその場でさばき食していただく。
最初に波止場から投げ釣りをした組はカワハギとキスを釣り上げたので、これらの刺身を真水で手を洗いカボスを絞って口に放り込んでもらった。
うまいのはわかっている。素晴らしい景色の中で釣り上げたばかりの新鮮な魚を素手で食べる。しかもプロの料理人がカワハギの肝まで調理したのだから。
即興のアイデアでしたが、私を信じてすべてを任せてくださった方々に対して、我々スタッフ一同も感謝の気持ちを精一杯表現したかったのです。
実は、釣り決行の最終決定は出港の30分前でした。そこで、私と漁師の親方と料理長はこの作戦で行こうと決めました。舟釣りの時間を犠牲にしてまで舟を親方の舟1艘にしたのは親方の判断で、やはり慎重な上にもさらに慎重にと思ったのでしょう。
3名の釣り人に漁師二人と私。なんと釣り人とスタッフが同じ人数舟に乗りました。
いよいよ出港。島影なら大丈夫とはいえ、釣りのポイントまでの約500メートルは波高3メートル。ポイントに到着する頃にはバケツいっぱいの水を頭からかぶったようにずぶ濡れになっていました。
しかし、ポイントに着くと嘘のように波はありませんでした。
1時間しかないので、早速漁師さんから餌の付け方を習い、仕掛けを海に落とす。そして事件発生!
なんと、海に出て釣りをするのは初めてという今回唯一女性で参加している田中さんに錘が海底に着いた直後強烈な当たりがきたのです!
竿先の揺れ方から明らかに鯛とわかるのですが、リールが回らないほど強い力で鯛が水中から釣り糸を引っ張っているのです
女性一人の力では海面に引き込まれた竿先を引き上げることは困難なので私が横で竿を支えました。田中さんは精一杯の力でゆっくりゆっくりリールを巻いていましたが、途中スッと軽くなったので、私は『これはバラしたかな?』と思いました。すると船長が、
「コイツは賢いから騙されるな!巻く力を緩めたらチャンスと見て逃げられるぞ!」
言われる通りでした。
そのまま巻続けていると、海面近くでまた暴れ出しました。しかし、田中さんも頑張る。魚影がはっきり見える所まで力一杯リールを巻き、最後は漁師さんが網ですくって魚と人間の対決は人間様に軍配が揚がりました。
運の強い人達ということはわかっていましたが、これほどとは思いませんでした。台風ということで周囲に他の漁船は一艘もいなく、波止場からこの常識外れな出来事をポーッと眺める漁師さんはきっと度肝を抜かれたことでしょう。
私(写真左)の服を見ればどれだけ海水をかぶったかが良くわかる。
「田中さんと真鯛の対決!」この強烈な引きが激闘を物語っている。
第一投目から35センチオーバーの鯛が上がり、最悪の状況で釣りをしているということをすっかり忘れてしまったメンバーは、その後も鯛、カサゴ、ベラを釣り上げました。
終わってみると、最悪のコンディションで決行したとは思えないほどの大漁に、漁港で浜料理を作り帰りを待っていた他の漁師さんや、奥さん方もビックリしていました。
ホテルの純粋なお客様というよりも、私 松前個人との関係で遠くから来てくださり、しかもすべてを任せきってくださったからこれだけ色々と動くことができました。
「松前さん疲れたでしょ?」
とんでもない。元気をいただいたのはむしろこちらの方でした。
私も漁師さんもすべてを任されていたからプライドをかけて取り組むことができたのです。
「お客様に喜んでいただこう!」
と思うのは当たり前のことで、誰だってやることでしょう。それよりも、現場で走り回る私達の気持ちをくみ取り、評価するということは、なかなかできることではないし、評価していただいた側もやっていてこれほど嬉しいことはない。
初日は岩国の錦帯橋へ行き、夜はブリ大根と小魚の唐揚げとアラ汁で宴会。
私だけじゃなく、漁師さんも、料理長も、ホテルのフロント、メンテナンス、関わった全員が幸せにしていただきました。こんな素晴らしい方々と知り合うことが出来た私は本当に幸せ者だと思います。
そう思うと、今回の台風の急な進路変更は神様が整えてくださった舞台なのかなぁと思えてきました。いつも一緒に仕事をしている仲間がこれほどまでにかけがえのない人達であると気付くことができたのもそうです。
携帯で台風情報を見て悩み続けていた2日間、まさかこんなエンディングが待っていようとは思いもしなかったから、人生というものは面白い。
予約の経緯。
釣りパックという特殊な商品。
台風という自然災害の発生。
今後、今回のような状況でゴーサインがでるとは限りません。いや、99%中止だと思います。
しかし、今回神様が一見難問に思える最高のプレゼントを用意してくださったことに私は心から感謝したいと思います。それだけ私にとって大切な人達だったから、私が思う『大切さ』の意味をこのような舞台を整えていただいたことで表現することができたのですから。
1時間後
↓
2時間後
コツを覚え終盤はついに鯛をダブルで釣り上げる。
釣りの後浜料理を食べながら乾杯。